■ 貧窮問答歌
風まじり 雨降る夜の 雨まじり 雪降る夜は 術(すべ)もなく 寒くしあれば 堅塩を 取りつづしろひ糟湯酒(かすゆざけ) うちすすろひて しはぶかひ 鼻びしびしに しかとあらぬ 鬚(ひげ)かきなでて 我をおきて 人はあらじと 誇ろへど 寒くしあれば 麻衾(あさぶすま) 引き被り 布肩衣 有りのことごと 着そへども 寒き夜すらを 我よりも 貧しき人の 父母は 飢ゑ寒ゆらむ 妻子どもは 吟び泣くらむ 此の時は 如何にしつつか 汝が世は渡る
天地は 広しといへど 吾が為は 狭くやなりぬる 日月は 明しといへど 吾が為は 照りや給はぬ 人皆か 吾のみや然る わくらばに 人とはあるを 人並みに 吾も作るを 綿も無き 布肩衣の 海松の如 わわけさがれる 襤褸(かがふ)のみ 肩にうち懸け伏廬(ふせいお)の 曲廬(まげいお)の内に 直土に 藁解(わらと)き敷きて 父母は 枕の方に妻子どもは 足の方に 囲み居て 憂へ吟ひ 竈(かまど)には 火気ふき立てず 甑(こしき)には 蜘蛛の巣懸きて 飯炊(いいかし)ぐ 事も忘れて
鵺鳥(ぬえどり)の呻吟(のどよ)ひ居るに いとのきて 短き物を 端截(はしき)ると云へるが如く 楚(しもと)取る 五十戸良ず声は 寝屋処まで 来立ち呼ばひぬ かくばかり 術無きものか 世間の道
世間を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば