そう、小さいころ、ずっと隣にいた女の人。
家族じゃなくて、近所の人じゃなくて、だけどずっと隣にいた人。
長い髪を腰でくくって、いつも寂しげに僕を見上げていた。
僕が眠っていると、いつもそばにたたずんでいて、長い髪が顔にかかって鬱陶しかった。
それから、落ち窪んだ目が少しだけ怖かった。そう、彼女の名は、否、彼の、名は、
「いらっしゃい、ね。いらっしゃい、ね。」
そう、昔読んだ本に出てきた、ほこりをかぶった本に出てきた、真っ白なお姫様。
だけど、物語の中で彼女は死んでしまって、それから、死者の世界で、ずっと暮らしていると記されていた、彼女。
「ね、いらっしゃいね。ね、踊りましょう、ね。ね。」
彼女はいつの間にか僕の隣に座っていた。
踊らない、と僕が震える声で言うと、彼女の隣に白髪の紳士が現れた。
この人も、物語に出てきていた。
確か、角田という名前の、
「ね、ね。踊りましょうね。踊りましょうね。ね、さびしいの。ね、ね」
助けて、というと、彼女は笑顔で、助けなぁい、と言った。
そして、重たいじっとりとした手で、僕の腕をつかむ。
僕は小さく悲鳴を上げた。
「ね、ね。踊ろうね。ね、踊りたいよね。助けないの、私はね、意地悪なのよぅ」