帝へ参内の折から、このクスリを深く込め置き、用ゆる時は一粒ずつ、冠の隙間より取り出だす。よってその名を帝より、「とうちんこう」と賜る。即ち文字には、頂、透く、香いと書いて、とうちんこうと申す。
ただいまはこのクスリ、殊の外世上に広まり方々に偽看板を出だし、イヤ、小田原の、灰田原の、三田原の、炭田原のと、いろいろに申せども、ひらがなをもってういろうと記せしは、親方円斎ばかり。もしやお立会いのうちに熱海か塔ノ沢へ湯治へおいでなさるか、または伊勢ご参宮の折からは、必ず過度違いなされまするな。おのぼりなれば、右の方、おくだりなれば、左側。八方が八つ棟表が三棟玉堂造り、破風には菊に桐のとうのご紋をご赦免あって、系図正しきクスリにござる。
最前より家名の自慢ばかり申しても、ご存じない方には正真の胡椒の丸呑み、白河夜船、さらば一粒食べかけて、その気見合いをおめにかけましょう。まずこのクスリをかように一粒舌の上に乗せまして腹内へ収めますると、イヤ、どうもいえぬは胃、心、肺、肝が健やかになって、口中微涼を生ずるが如し、魚鳥、きのこ、麺類の食い合わせ、そのほか万病速攻あること神の如し。
ようやく霧が晴れた。
ところでどうなってんの?