「もしもし」
「もしもし。大原さんですね」
「はい、そうですが?」
「あなたの娘さんをお預かりしています」
「なっ」
「無事に帰してほしければ、5億円支払っていただきましょう」
「そ、そんな大金……」
「払えないと? 大切な娘さんの代金としては安いくらいだと思うがね」
「そんな。そんなことを言われても……とても集められない」
「ほう。……冷たいお父さんだね、払えないそうだよ。あんたがどうなってもいいらしい」
「おい! そこに娘はいるのか。出してくれ、声を聞かせてくれ!」
「金は払えない、声は聞かせろとは虫がよすぎるんじゃないのかい。……まあいい、娘さんの悲鳴を聞けば気も変わるかもしれないからな」
「悲鳴だと。何をする気だ。やめろ!」
「出てやりな、娘さん。そして今どんな目にあっているかをじっくりお父さんに説明するんだ。いいな」
「おいっ何を……」
「お父さん!」
「おお、しず子! 大丈夫か。何もされていないか」
「今はまだ大丈夫よ、お父さん。でも何やら始まりそうな雰囲気……ああっ!」
「しず子! どうした、何があったんだ」
「犯人グループの1人が液体の入ったコップを持ってこっちにやってくるわ! やめて、その液体は何? そしてそれをどうするつもりなの!」
「しず子! 大丈夫かしず子! その液体はどんな様子だ! 色、におい等」
「無色透明よ、お父さん! そして無臭……少なくとも2メートル離れている現在の状況においては。あっ。今犯人グループの別の1人がテーブルの上にある砂糖入れから角砂糖を1つ取りだしました。そしてなぜかこっちに向かってきます! いやあ! やめてー!」
「しず子! しず子どうしたんだ! 何があったんだしず子!」
「ただいまわたくし、犯人の1人に角砂糖を口に押し付けられております! 甘い! 甘い! これはたしかに角砂糖! しかしこの行動に何の意図があるのでしょうか犯人グループ」
「やめろー! 娘に何をする!」
「あっ。そして今、わたくしの口から角砂糖が離れました。そしてその角砂糖を……? あっなんとこれは! さきほどのコップに入れた! 入れました!」
「液体の入ったコップか! しず子!」
「そう、液体の入ったコップです。角砂糖はみるみるうちに溶け……。えっ! なんと! これはどうしたことでしょう! 溶けません、角砂糖が液体の中で原型を保っております!」
「なんだって。そんなバカな」
「そうです、こんな不思議なことがあるでしょうか! この信じられない光景を目の前に、わたくしただ言葉を失うのみであります! 自分の舌で確認したので間違いありません、あれはたしかに角砂糖! つまり秘密はあの液体の方にあると……ああっいけません! これはいけません!」
「どうしたしず子!」
「犯人グループの1人がコップを持ってこちらにやってきます! あの謎の液体をわたくしに、わたくしに飲ませるつもりのようです! 人体にどのような影響があるか等まったく謎のあの液体、やめて! やめて! ああっどうやら最後までお伝えすることは不可能に」
「しず子! しず子おお」
「どうだい、大原さん。娘さんにこれ以上正体不明の液体を飲ませてほしいかい」
「……う……うう……ふざけるな!」
「何?」
「正体不明だと? くだらないことを言うな! 角砂糖が溶けなかったのは、事前に砂糖を水に溶かしてそれ以上砂糖が溶けない状態になっていたからだ。つまり謎の液体の正体は……砂糖の飽和水溶液だ!」
「く……。フッフッフ。あんたを甘く見すぎていたようだな。砂糖だけに。だが次はこうはいかん。おい、娘をもう一回連れてこい。……それでは第2問です」
「しず子! しず子おぉ」